Graduate School of Engineering, Kobe University

工学部Faculty of Engineering

高度な専門的知識と幅広い見識をもった技術者を養成すると共に、研究大学としての神戸大学にふさわしい研究者を養成することを目指しています。

市民工学科

安全・安心で環境に調和した市民社会の創成

市民工学科は、これまで建設学科と呼ばれていた学科を母体として平成19年度から新しく発足した学科です。英語名称が”Civil Engineering” であることからもわかるように、市民工学は、橋・鉄道・空港や上下水道など公共利用のための社会基盤施設の建設と保全を通じて、安全・安心で環境に調和した市民社会を創成することを目指す工学領域です。

新たな都市・地域施設の建設だけではなく、老朽化してきた施設の更新や維持管理、そしてそれらを支える技術開発が重要な課題となってきています。 最近ではとくに、環境に配慮するとともに市民の意見を広く反映した都市・地域の計画や施設計画が進められるようになり、設計基準や制度の国際標準化も大きく進展してきています。

このような背景の下で、私たちは従来の土木工学を包含した幅広い内容を持つ工学領域を21世紀型の新しいCivil Engineering(=市民工学)としてとらえ、土木工学を基盤としつつ安全・安心で環境に調和した市民社会の創成のための基礎的な教育と研究を進める学科として、市民工学科を設立しました。

私たちは21世紀の市民社会が必要とする「パブリックサービス」の担い手を志向する学生を受け入れたいと考えています。

パブリックサービスの役割

1. 安全・安心:地震や洪水など自然災害から私達を守り安全で安心な生活環境を提供すること。
2. 自然共生:自然環境と調和した社会基盤を整備し、未来の人類に良好な地球環境を継承すること。
3. 地域協働:地域市民の意向を反映し個性豊かな都市・地域空間を創出すること。
4. 国際協力:海外での社会基盤整備や災害援助など国際社会の発展を支援すること。

学びの特徴

米国ワシントン大学での神戸大学生

米国ワシントン大学での神戸大学生

パブリックサービスを遂行する人材は、スペシャリストとジェネラリストに大きく分類できます。前者はより高い技術的専門性を有する人材集団であり、後者は幅広くかつバランスのとれた専門知識を有する総合性の高い人材集団です。

それぞれの人材集団は国内(ローカルエリア)のプロジェクト等が対象の場合は協働性が要求され、それが海外(グローバルエリア)に展開する場合には言語能力を含めた豊かな国際性が必須となります。国内的には、過酷な自然条件のもと、美しい国土の持続的発展に資する高度かつ高質の社会基盤整備を遂行できる人材を養成していきたいと考えています。国外に対しては、わが国の近代化のなかで蓄積してきた高度の技術・科学を、当該国・地域の自然的・社会的条件に配慮しながら適応させることのできる人材を養成します。

以下の図は、市民工学科が輩出する人材が備えるべき資質及び具体的な職業のイメージを示したものです。

 

私たちは、21世紀の都市が達成すべき価値観は「安全」「環境」および「創生」であると考えています。市民工学科では、21世紀の市民社会が必要とする「パブリックサービス」の担い手となるための専門基礎知識および創造性を持った国際性豊かな人材の育成を目標としています。伝統的な土木工学の領域を包含した幅広い学際的視点と専門知識を有する実践的で高度な能力を持つ人材の養成を目指しています。

自然災害や社会災害に対して安全な都市・地域の創造と、自然と共生する都市・地域を目指した環境の保全と都市施設の維持管理・再生に関する教育を基盤として、都市再生、市民参加、国際化などを包含した幅広い工学領域を21世紀型の新しいCivil Engineering(=市民工学)としてとらえ、都市・地域空間の安全と環境共生に関する分野の教育研究を行います。

このため、市民工学専攻に人間安全工学及び環境共生工学の2講座を設置しています。

人間安全工学講座

巨大地震などの自然災害や交通事故などの社会災害に対して安全な都市・地域を創造するための基礎的な学問領域として、社会の安全に関わる構造安全工学、地盤安全工学、交通システム工学の分野と、自然災害からの都市の防災に関する地盤防災工学、地震減災工学、流域防災工学の分野に関する教育研究を行います。

環境共生工学講座

自然と共生する都市・地域を目指した環境の保全と都市施設の維持管理・再生に関する基礎的な学問領域として、都市・地域の環境保全に関わる環境流体工学、水圏環境工学、地圏環境工学の分野と、自然共生型の都市・地域の維持管理と再生に関わる広域環境工学、都市保全工学、都市経営工学に関する教育研究を行います。

授業紹介

学部レベルの教育では、伝統的な土木工学の科目を基盤として、これらの価値目標を達成するための基礎となる科目を用意しました。

(主な授業科目)
測量学,測量学実習,土木 CAD 製図,実験及び安全指導,数値計算実習,連続体力学,材料工学,構造力学 I ,構造力学 III ,構造力学 II 及び演習,コンクリート構造学,構造動力学,地震安全工学,橋梁工学,水工学の基礎及び演習,管路・開水路の水理学及び演習,河川・流域工学,水文学,海岸・港湾工学,地圏環境工学,上下水道工学,土質力学 I 及び演習,土質力学 II 及び演習,地盤基礎工学,地形工学,計画学 I 及び演習,計画学 II ,都市地域計画,交通工学,地球環境論,水圏環境工学,都市環境工学,シビックデザイン,都市安全工学

また、近年の社会基盤事業では、プロジェクトに関する専門知識だけではなく、一般市民に対する説明能力やコミュニケーション能力が不可欠となってきているため、具体的な事例を通じた少人数教育により学生の能力向上を図ります。

(少人数教育科目)
創造思考ゼミナール I ,創造思考ゼミナール II

さらに、時代の要請にあわせ、カリキュラムを柔軟に変更することで、つねに最新の技術を身につけ、かつ、国際的にも活躍できる技術者や研究者を養成する教育体制を整えています。

(新設された授業科目)
市民工学概論,市民工学倫理,市民工学のための確率・統計学,国際関係論,学外実習,プロジェクトマネジメント,合意形成論,公共施設工学,土木設計学,市民工学のための経済学

学習への主体性を養うための少人数教育: 創造思考ゼミナールⅠ

1グループ当たり6~8名程度に分かれて、各グループを担当する教員の指導のもと、市民工学に関連したテーマを与えられ、グループ単位で討議・調査・分析・発表を行います。 受講生は、創造的思考のための問題発見能力、ディベート能力、分析/批判/評価能力、プレゼンテーション能力の習得を目指します。これによって、主体的に勉強および研究に取り組む能力が養成されます。

卒業研究にあたっての基礎技術の習得のための少人数教育: 創造思考ゼミナールⅡ

1グループ当たり6~8名程度に分かれて、各グループを担当する教員の指導のもと、グループ単位での共同作業を通じて創造的思考のための問題発見能力やディベート能力を養うだけでなく、一人ひとりの分析・批判・評価能力やプレゼンテーション能力も養います。 受講生は、4年次で卒業研究を始めるにあたって不可欠な基礎的な技術として、海外の専門資料の調べ方、データの分析アプローチ、研究資料の作り方、科学論文の様式と書き方、口頭発表の仕方などを習得します。

市民工学に必要となる様々な実験: 構造材料実験、水理実験、土質実験

構造物の建設計画・設計を行う際に必要となる市民工学各分野(構造材料、水理、土質)に関する実験を行います。実験中には機械装置・電気機器・電動工具・薬品などの取り扱いや重量物の移動作業などの安全に十分な配慮が必要となるため、作業の安全に関する基礎知識および技術者倫理を習得を行います。

構造材料実験では、コンクリートの配合設計を行い、作成したコンクリートの力学特性を調べます。鉄筋コンクリートはりの曲げ・せん断に関する力学挙動を把握するための実験を行います。そして、鋼材の強度特性および構造物の静力学の挙動を確認するための実験を行います。

水理実験では、簡単な装置を用いた室内水理実験により、運動量則・ベルヌーイの定理・渦発生・摩擦法則・水面波動など、市民工学において重要な流れに関する特性・メカニズムの理解に繋げます。

土質実験では、室内土質実験により、土構造物に設計する際に必要な土質定数の算定法を学びます。実験を通じて,土質分類・変形強度特性・締固め特性の理解に繋げます。

卒業研究

学部最終学年の学生は、市民工学科および都市安全研究センター所属の教員で構成される研究グループに配属され、各教員の指導のもとに卒業研究を行います。各研究グループは、配属学生向けに教育・研究内容の説明資料を作成し、説明会を開催しています。

説明資料をダウンロードできるページへ

国際交流

市民工学科では、アジア、アフリカ、中米地域などから多くの留学生を受け入れています。また、本学科からは、毎年数名の学生が欧州・太平洋地域の大学に留学しています。最近では、学生が米国、ヨーロッパの企業等の海外インターンシップにも参加しています。

教員の国際交流活動が活発なことはいうまでもありませんが、学生の国際会議での発表も活発化しています。また、米国、フランス、韓国などの大学等研究機関との国際共同研究やアジア地域などでの調査研究活動も活発に行われています。

卒業後の進路

学部を卒業する学生の80%は大学院に進学し、さらに高度なレベルの教育を受けます。

卒業・修了生は、国内外で公共性の高い様々な仕事に従事する、高度な専門技術と総合的な判断力を兼ね備えたエンジニアとして活躍しています。代表的な就職先として、官公庁、公益企業(鉄道・運輸、電力、ガス)、建設業、各種製造業、情報・物流産業、不動産・保険業、調査・設計・計画コンサルタント、大学・研究機関・シンクタンクなどが挙げられます。国内だけでなく世界を舞台に、安全で豊かな市民生活の基盤づくりに貢献しています。

主な就職先(五十音順、2016年3月学部卒業生、大学院修了生)

I&S BBDO、青木あすなろ建設(株)、(株)安藤・間、出光興産(株)、(株)インテリジュンス、インベスターズクラウド(株)、(株)ウィル、宇部興産(株)、NTT西日本、大阪市役所、(株)大林組、(株)オリエンタルコンサルタンツグローバル、 鹿島建設(株)、川崎重工業(株)、関西エアポート(株)、関西電力(株)、京阪電気鉄道(株)、(株)建設技術研究所、(株)鴻池組、神戸市役所、神戸大学、国土交通省近畿地方整備局、国立研究開発法人港湾空港技術研究所、 シアトルコンサルティング(株)、JFEエンジニアリング(株)、清水建設(株)、(株)神鋼環境ソリューション、新日鐵住金(株)、住友林業(株)、大成建設(株)、大東建託(株)、(株)ダイナム、中央復建コンサルタンツ(株)、 東京急行電鉄(株)、東京都庁、東邦ガス(株)、飛島建設(株)、東レ建設(株)、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、中日本高速道路(株)、奈良県庁、西日本鉄道(株)、(株)NIPPO、日本テクノ(株)、(株)野村総合研究所、 阪神高速道路(株)、阪神電気鉄道(株)、Hitz日立造船(株)、(株)フージャースホールディングス、復建調査設計(株)、本州四国連絡高速道路(株)、三井不動産リアルティ(株)、陸上自衛隊、(株)リクルート住まいカンパニー

在学生・卒業生からのメッセージ

たくさんの魅力的な研究テーマ

丸山 満帆(2015年学部卒業、2017年博士課程前期課程修了)

神戸大学を卒業後に神戸大学大学院に進学し、修了後の現在は、名古屋鉄道株式会社で働いています。就業先では、主に鉄道に関連する仕事に携わっています。
大学では研究室に所属して、教員の指導のもとで研究をします。私の場合、大学と大学院で違う研究室に属しました。大学生のときはクルマの賢い使い方について、大学院生のときは水害時の避難行動について研究しました。まったく違うテーマで研究をしたことで、多角的なものの見方を学べてよかったと感じています。
大学・大学院で学んだことは、学校以外の場面も含め、多くの場面で活かすことができていると思います。神戸大学には、魅力的な研究テーマがたくさんあります。高校生の皆さんにはぜひ学びに来てほしいと思います。

選ばれるまち『神戸』

三島 功裕(1984年学部卒業)

神戸大学を卒業後、神戸市役所に入庁し、河川の仕事、道路の仕事、都市計画の仕事など、様々な仕事に携わりました。
少子・超高齢化の進展による人口減少のトレンドは神戸市においても始まっています。将来を見据え、人口減少社会に相応しい都市像を構築していくことが、我々に課せられた大きな責務であり、やりがいでもあります。その中、都心が魅力的で人を引き付けることは、都市が安定成長していくために不可欠です。
そのため、神戸の都心を大胆に活性化する「将来ビジョン」、さらにJR 三ノ宮駅を含む三宮周辺地区の「再整備基本構想」の策定に取り組んでいます。我々が策定した「将来ビジョン」「再整備基本構想」が具現化し、多くの人が都心三宮を回遊している様を想像するだけでワクワクしてきます。
神戸が、選ばれるまちとして、また、市民が世界に誇れるまちとしてさらに進展していくよう頑張っています。

トピックス

データを活かし都市や交通をよりよいものに

都市や交通をよりよいものにするためには、それらが人々によってどのように利用されているのかを観測することが必要です。近年、都市の人の動きを観測する手段としてビッグデータという言葉が流行しています。しかし、市民工学の分野のひとつである交通工学では、データを取得しそれを都市交通の計画や運用に活かすことは何十年も昔から行われており、ビッグデータも含めた新しい技術を活用するための先端的な研究も継続的に行われています。観測したデータの活用方法も重要な研究テーマです。データを基に人の動きを記述し、それを数学やコンピュータで計算し現象予測や施策評価を行います。人々の意思や行動が相互作用することによる現象は思いのほか複雑で、ゲーム理論など経済学のトピックとも関連する研究が行われています。

バーチャルリアリティ実験、交通ネットワークシミュレーション

バーチャルリアリティ実験、交通ネットワークシミュレーション

地盤災害から命を守る

1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、2014年の広島市の土砂災害、我が国は、地震や豪雨による地盤災害の危険に絶えず直面しています。頻発する地盤災害から貴方の命を守る!貴方にとって大切な人々の命を守る! そのために、巨大地震が来ようが、大雨が降ろうが、自然の脅威に負けない街!このような湧き出る思いを胸に、我々の宿命を私達の使命に変える挑戦を続けています。都市化が進むと、雨水が地盤に浸透する量が減るため、下水管の中の水が噴水のように地上に溢れ出す、鉄砲水が人々を襲う。このような都市型水害を減らすために、道路の側溝沿いにたくさんの浸透枡を設けて、雨水を地盤内に強制的に浸透させる方法があります。そこで、近隣の自治体と連携し、雨水浸透適地マップを作成しています。2008年の都賀川での痛ましい事故を決して忘れないためにも。

都市型水害軽減のための雨水浸透適地マップ

都市型水害軽減のための雨水浸透適地マップ

コンクリート構造物の性能の評価

人々の移動や物流の社会的基盤となる道路や鉄道などの構造物には、コンクリートで造られたものがあります。これらの構造物は簡単には取り替えることができませんので、新しく造った構造物が安全で、人々が安心して使うことができるのはもちろん、古くなってもその「性能」を発揮させつづける必要があります。コンクリート構造物の「性能」、例えばどの程度の力に耐えることができるか、また大きな力や変形にどのように抵抗するかを詳しく知ることが、安全・安心を実現するために重要です。われわれの研究では、画像解析により平面領域を対象としたひずみ計測を行い、コンクリートのひび割れや圧縮ひずみが卓越する領域を特定し、それらを詳しく分析して構造部材が破壊に至るまでの挙動と関連づけることに成功しています。そのとき、一般的な高解像度デジタルカメラのほか、急激に進展する部材破壊では高速度カメラを使用したり、非常に微細なひび割れにはマイクロスコープを利用したりと、状況に応じた測定を行います。これらの一連の研究を通して、社会基盤構造物の未来を想像し、創像する(未来のイメージと新たなビジョンを示す)ことを目指します。

マイクロスコープを用いたコンクリートのひび割れ観察と画像解析

マイクロスコープを用いたコンクリートのひび割れ観察と画像解析

海を理解して沿岸域を守る

我が国の国土は急峻であるため、人口や資産の大部分は標高の低い沿岸域に集中しています。この沿岸域は、台風に伴う高潮や高波、海底地震による津波などの風水害にさらされやすい場所です。一方で、沿岸域は海洋生物の貴重な生息空間であり、漁業や水産業が営まれ、船舶が航行し、海底鉱物資源の供給源にもなり得る経済活動の盛んな水域です。しかしながら、地球温暖化の影響や、沿岸に立地している下水処理場や発電所などからの排水の影響を受けやすい場所でもあり、例えば不慮の事故により汚染物質の海洋流出が生じた場合、沿岸域はとても脆弱です。沿岸域をまもることは我々の重要なミッションの一つであり、これらの問題の解決に向けて、海の波や流れに関する流体力学的な研究を行い、海域での物質輸送や拡散過程、海洋生態系へのインパクトの評価を行います。そのために、スーパーコンピュータを用いた海洋流動シミュレーション、現地観測、衛星リモートセンシング技術などを統合して、複雑な沿岸海洋防災・環境問題に取り組んでいます。

サンゴ礁の上に形成されたポケットビーチ

サンゴ礁の上に形成されたポケットビーチ