Graduate School of Engineering, Kobe University

工学部Faculty of Engineering

高度な専門的知識と幅広い見識をもった技術者を養成すると共に、研究大学としての神戸大学にふさわしい研究者を養成することを目指しています。

建築学科

環境との共生、安全で豊かな生活空間の創出

建築学は人間生活の基盤である住宅及び建築施設等の生活空間を創造する最も普遍的な学問のひとつです。人と地球に関わる普遍的課題と現代的課題に応えるためには、「計画」・「構造」・「環境」という建築の基礎的学問領域を修めると同時に、これらを総合して現実的課題に対する具体的解答を導き出す「空間デザイン」の能力を備えた人材の養成が求められています。

建築学科では、大きく変化する時代に的確に、また、総合的に対応できる人材の養成を目指して、専門性と総合性を結合した教育を行います。

学びの特徴

鋼構造骨組の実大載荷実験

建築学科では、建築単体だけではなく、地域空間から都市空間、さらに地球環境に直結するエコロジーをも展望することのできる人材の養成を目指して、空間デザイン、建築計画学、建築構造工学、及び建築環境工学の4講座を設置しています。

特に、人間性・社会性、国際性、創造性、専門性及び総合性の教育を理念としており、その理念に沿った教育目標を達成するために、工学及び人文・社会・芸術の諸領域にまたがった教養・専門基礎教育、建築学の「計画」・「構造」・「環境」の基礎から応用にいたる専門教育、さらに総合的、実践的な空間デザイン教育へと繋がる体系的なカリキュラムを編成しています。

「総合性の教育」を実現するために、デザイン系の講義や演習の体系を整備し、建築マネージメントに関する講義や実社会での実務演習としてインターンシップ(学外演習)も充実させています。これらは、計画、構造、環境の専門教育を総合化し、さらに実践力の向上を図ることを目的としており、演習や実務関連科目では、学内スタッフに加えて、実社会で活躍する建築家、プランナー、エンジニアによる指導体制も充実させており、実践力がつく教育研究システムとなっています。

 

授業紹介

デザイン・空間創造の専門能力を養う:設計演習Ⅰ~Ⅲ

設計演習Ⅰ~Ⅲは1年生から3年生を通して継続して行われる演習科目です。まず、1年生では設計の基礎となる製図法から始めます。建築設計の一般図である平面図,立面図,断面図や透視図を作成する基礎知識と技術を習得します。2年生から取り組む設計課題は、住宅、事務所、図書館、子育て施設等であり、規模や機能がより大規模、複雑になっていきます。演習と並行して行われる専門講義で修得した知識を総合化し、多様な機能の建築物の設計ができる専門能力を身に付けます。指導は学内の専任教員に加えて、第一線で活躍する建築家を非常勤講師として招いて行われています。

建築設計を支える計画の知見を学ぶ:建築計画I・II・III・IV

建築計画I・II・III・IVは1年生から2年生にかけて行われる講義です。建築や環境の計画に関する基礎的な知識と方法を習得し、人間と空間・環境との関係性、安全性への配慮などの計画の原点について学びます。住宅、集合住宅、事務所、保育所、学校、美術館、図書館などの事例分析を通して、多様な建築タイプ毎の建築・デザインの特質が講述されます。施設別の事例に加えて、規模の計画、集合の計画、都市建築の計画、地域の計画等というテーマに分けて、建築計画の理論に対する理解を深めます。建築計画を学んだ後は、建築物が集合する地域や都市を対象としたアーバンデザインや都市計画へと建築学の対象は広がっていきます。

音環境計画,熱環境計画(2年生後期開講),光環境計画(3年生前期開講)

建築物を設計するうえで欠かせないのが、快適な環境を実現することです。また、一般に環境工学は快適性のみと結びつけて論じられがちですが、安全性や意匠性にも深くかかわる部分があり、これを修得することは、より良い建築・都市空間の実現のために必要不可欠です。本学科では、環境工学(光・音・熱・空気・都市・設備)について、基礎的な内容を2年生前期までに修得しますが、2年生後期にはそれぞれ内容についてより進んだ内容を学ぶ科目を用意しています。これらでは、目には見えない現象などを、マルチメディアを用いたデモンストレーションや、シミュレーション技術を用いた、視聴覚教材を活用して修得できるように工夫を凝らした授業を行っています。

エアコン吹出口付近の赤外線画像(天井表面の温度分布)
反射音の遅れ時間と方向感
エアコン吹出口付近の赤外線画像
(天井表面の温度分布)

行灯を用いた光の透過特性の確認
行灯を用いた光の透過特性の確認

 

構造・材料実験(構造系)

建築物を設計する際には,建築物の各種の性能を評価し,必要性能を満足させるよう計画を進める必要があります。本授業では,建築物の構造および環境的性能を評価する際に不可欠となる,建築物の構成要素の特性を把握するための各種の実験方法を学ぶとともに,各種実験を通じて,建築物を構成する材料や部材の挙動の理解を深めることをテーマとしています。

ここでは,実験観察等を通してそれらの実挙動をより深く理解する。また実験結果や解析結果を吟味し,考察する能力を養います。

また,建築構造に関しては,構造設計Ⅰ,構造設計Ⅱといった科目が開講されており,鉄筋コンクリート構造と鋼構造の構造設計ならびにコンピュータを用いた地震応答解析の演習課題を通じて,総合的な設計能力を養います。

構造・材料実験:コンクリート練り
構造・材料実験:コンクリート練り
構造・材料実験:振動台実験
四年間で学んだ建築学の集大成:卒業研究(卒業設計)

最終年度である4年生の必修科目である「卒業研究」では、多くの学生が卒業設計に取り組みます。テーマや敷地が与えられた設計・計画演習とは異なり、卒業設計では学生自らが課題を設定して、それに対する空間提案を行います。4年間を通して学んだ計画・構造・環境の知識を総動員させて、地域や建築空間として結実させます。4年次に配属される研究室での指導に加えて、設計演習を担当された第一線で活躍する建築家を招いた中間講評会など充実した教育体制がとられています。自分の作品をプレゼンテーションする卒業設計発表会と合わせて外部講評者を含めた公開選考会を開催し、優秀作品が選定されます。

国際交流

工学部レベルではタンペレ工科大学(フィンランド)、重慶大学・天津大学(中国)等と、全学レベルではワシントン大学(米国)と協定を締結し、毎年数名の学生が海外留学をし、留学先での取得単位互換制度の適用を受けています。

特に天津大学との交流協定では、両大学の教員が相互訪問し、留学生を受け入れています。

また、海外からの留学生も多く、大学院に進学する者も多数います。

ここで明記した以外にも多くの協定校があり、活発な国際交流を通して、国際感覚を身につけた大学院修了生を世に送り出しています。

卒業後の進路

近年の科学技術の進歩や多様化を背景に、学部学生の半数以上が大学院(博士課程前期課程、2年間)での研究活動継続を目指すようになっており、博士課程後期課程(3年間)まで進学して、本格的な研究生活を送る学生も増えています。

卒業後は、官公庁、建設会社、公益企業(電力、ガス、運輸)、設計事務所、コンサルタント、シンクタンク、設備業、各種製造業、情報産業、物流産業などに進み、さらに大学、研究機関など多方面でも活躍しています。

本学科の卒業生は、学部終了後所定の実務経験の上、国家試験に合格すると一級建築士、技術士の資格を取得できます。

主な就職先・進学先(2022年3月学部卒業生,大学院修了生)
学部卒業生の就職先

長谷工コーポレーション、西松建設、高松建設、住友林業、旭化成リフォーム、積水ハウス、セキスイハイム山陽、セキスイハイム近畿、三菱地所、日本国土開発、野村不動産、神鋼不動産、カチタス、日立製作所、三機工業、パナソニック、NECソリューションイノベータ、ウイルテック、JT、ネオキャリア、Speee、fundbook、三井住友海上火災保険、国土交通省中部地方整備局

大学院修了生

大林組、竹中工務店、鹿島建設、東急建設、錢高組、中蔵、近鉄不動産、フージャースホールディングス、日揮グローバル、デンロコーポレーション、JFEスチール、日鉄エンジニアリング、旭化成建材、須賀工業、東京電力、関西電力、大阪ガス都市開発、Gree Electric Appliances珠海格力電器股份有限公司、関西エアポートサービス、アクセンチュア、ベガコーポレーション、国土交通省近畿地方整備局、大阪府、都市再生機構

在学生・卒業生からのメッセージ

かけがえのない存在

永久 実伽子
(2015年学部卒業, 2017年博士課程前期課程修了)

建築物は、人が生きる上でなくてはならないかけがえのない存在です。
生まれた時から今の今まで私たちは何かしらの建築物の傍で笑ったり、泣いたり、喜んだりしてきたと思います。
そのような身近な存在を深く学ぶと、これまでとはまた違った視点を得ることができ、世界が拡がります。
私は構造系の研究室に所属し、主に構造の分野を学んでいますが最も興味を持っているのは建築物の力の流れを理解することです。街中にある建築物はどんなに複雑であっても全て力の流れをうまく処理した設計がなされて立派に存在できています。
その面白さに気づいてからは旅行先、特に海外において視点が変わりました。海外では設計基準等が異なるため日本では存在し得ないような建築物があります。それを見て『どのような構造なのだろう』と自ら考え、これまでは当たり前な存在としていた建築物をひとつの”もの”として捉えるようになりました。
この視点の変化があってから、なおさら自らの手で建築物を設計したいと思うようになり、自分の考えをかたちにし、そのかたちが成立するための条件を選択していく『ものづくり』の楽しさをますます知ることになりました。
みなさん、今後もかけがえのない存在であり続ける建築学を是非神戸大学で学んで、新しい世界や夢を持ってみませんか。

建築を通して感動を

吉田 卓彌
(2015年学部卒業, 2017年博士課程前期課程修了, 現在 安藤ハザマ建設技術研究所勤務/本学博士後期課程社会人学生)

私は中学生の頃に吹奏楽コンクールで初めてコンサートホールで演奏した際に『自分の音がいつもの何倍も綺麗に聴こえる!』と感動し、それ以来抱いていたコンサートホールの建築に関わりたいという思いを胸に神戸大学の建築学科に入学しました。
大学に入学すると建築音響学の講義はもちろん、それ以外にも設計や構造に熱と様々な分野の講義があります。絵がへたくそだった私は設計課題がとても苦手でした。
4年生になると研究室に配属されますが、ここからはそれまでの基礎と変わり、最先端の建築技術に携わることとなります。私は念願の音響系の研究室に配属され、新しい音響シミュレーション技術の開発に3年間没頭し、学会発表や論文執筆を通して多くのスキルを身に付けることができました。
その後、縁あってゼネコンに入社し、技術研究所の音響担当者となり、現在は技術開発に加えてコンサートホールを含む様々な建築物の設計・施工支援を行っています。様々な専門の人が関わる建築の仕事をする上で、大学で学ぶ建築学の基礎知識はもちろん、研究室活動で鍛えられた課題への取り組み方やプレゼン能力がとても役立っています。
私の場合はコンサートホールでしたが、建築は人に感動を与えられる素晴らしいものです。みなさんも神戸大学で建築の知識とそれを実践する力を身に着け、建築を通して誰かに感動を届けてください。

建築研究トピックス

持続可能な社会構築に貢献する減災デザイン学
市民WSを伴う基本設計によって実現した「南町田グランベリーパーク」

市民WSを伴う基本設計によって実現した
「南町田グランベリーパーク」

建築には社会のビジョンを示し、未来を実装していく使命があります。持続可能性、災害リスクに対する回復力(レジリエンス)がますます重要視される現代において、誰もが安心して暮らしていけるような社会、都市環境を構築していくため、人類が蓄積してきた建築、都市をつくる知恵を丁寧に継承しながら、新しい技術革新、情報革新に対応したデザインが求められます。専門性を発揮しながらより多くの人々を巻き込んで新しい空間を創造していくことが21世紀の空間デザイン=レジリエント・デザイン(減災デザイン)の課題です。


ヒートアイランド現象の緩和
都市構造物の表面被覆技術に関する実験施設 (神戸大学内に設置)

都市構造物の表面被覆技術に関する実験施設
(神戸大学内に設置)

ヒートアイランド現象の緩和効果を目的とした都市構造物の表面被覆技術には、屋上緑化や日射高反射率塗料の屋根への塗装(クールルーフ)、保水性舗装などがあります。

神戸大学のキャンパスにある8階建ての研究棟屋上には専用の実験施設があり、そこでは屋外測定に基づく熱と水分の解析によりヒートアイランド現象の緩和効果に関する研究が進められています。

日射量、温度、湿度、土壌含水率、伝導熱流などの測定が行われ、種々の気象条件における表面被覆技術の緩和効果が熱収支解析から明らかにされています。


気候変動と激化する災害に対する減災復興計画学
米国の水害後に建築家が提案した水害に強い住宅

米国の水害後に建築家が提案した水害に強い住宅

地球規模で進む気候変動への適応や激化する災害のリスク軽減にとって、建築計画学が果たす役割は拡大しています。写真は米国の水害後に建築家が提案した住宅ですが、暮らす場所を定め、住まいを作り維持管理していくのは生活者です。生活者が被災後にどこで暮らしを再開するか、どのような住宅を再建するかという減災復興行動はリスク低減を決定づけます。建築、地域、都市スケールでリスクを軽減する減災復興計画学を追究しています。



擁壁(ようへき)との衝突を考慮した免震建物の応答低減手法に関する研究

阪神淡路大震災以降、建築構造物が地震を受けたときの被害を低減するための有効な手段の一つとして免震構造が数多く採用されています。しかしながら、今後想定すべき海溝型巨大地震や内陸直下地震などの超大型の地震を受けたときに、免震層の変形が過大になり、とりわけ既設の免震建物では上部建物と地面側の擁壁が衝突することが懸念されます。本研究では免震層の応答変位と応答速度に応じて減衰力の出力が切り替わるダンパー(オンオフダンパー)を付加することによってこの現象を低減させる手法を提案しています。

振動台実験によるオンオフダンパーの検証実験