研究活動Activity
「社会に要請に応える新しい科学技術」に関する研究を推進するために機動性のある研究体制を構築しています。
神戸大学大学院工学研究科の古川武留助教、嶋﨑健人(研究時は博士前期課程学生)、中本聡助手、竹野裕正教授らの研究グループは、提案する高周波型電気推進機において非一様磁場(カスプ磁場)形状を適用することによるプラズマ密度の増加と、推進機の推力強化に適したカスプ磁場条件を明らかにしました。この成果は磁気ノズルを使用した高周波型電気推進機の更なる推進機性能向上のための条件導出につながります。
この研究成果は、11月18日に、米国物理学協会のPhysics of Plasmas誌にてオンライン掲載され、Featured Articlesに選出されました。
・磁気ノズルを利用した高周波放電型無電極電気推進機
・プラズマ生成領域にて非一様磁場を付与することでプラズマ密度分布を制御
・カスプ磁場形状がプラズマ推力向上に寄与することを解明
次世代型宇宙航行用電気推進手法の一つとして、高周波電力を活用した高周波型電気推進機の研究開発が進められています。この高周波型電気推進機はプラズマと直接接触する加速電極がないため、電極スパッタ損耗由来の推進機内部汚染由来の性能低減の問題を解決できる推進機手法です。
電気推進機では推進剤をプラズマ化させ、これを熱力学・電磁力学的に加速させることで推力が発生します。高周波型電気推進機では磁気ノズルとよばれる、地上打ち上げ用化学ロケットエンジンで使用されるラバールノズル形状に似た発散磁場分布を用いることで、プラズマを加速・排気させる手法が提案されています。
カスプ磁場形状という、磁場強度がゼロとなる空間領域を有する非一様磁場条件(図1(a))をプラズマ生成領域に付与することで、プラズマ生成領域におけるプラズマの壁面損失の低減がみられており、この磁場形状を適切に制御・利用することで、推進機性能の向上に寄与することが期待されています。
図1:本研究で用いた磁場条件の2次元分布 (図の上側が磁力線分布、下側の色付き部は磁場強度分布を表す) (a)は非一様磁場(カスプ磁場)条件、(b)は従来の一様磁場条件。 オレンジ色の縦線はプラズマを生成するための高周波アンテナ。
本研究では円筒型の磁気ノズル推進機模擬装置において、実験的に非一様磁場であるカスプ磁場形状がプラズマ密度に与える影響を評価しました。磁場形状や強度といった条件を変化させながら、局所的なプラズマパラメータ(電子エネルギー分布関数、温度、密度、プラズマ電位)をプラズマ生成領域から加速領域にわたり測定することで磁場条件の依存性を検証しました。結果として、カスプ磁場を使用した条件と従来の一様磁場条件と比較して、プラズマ排気領域のプラズマ密度が10倍以上増加することを明らかにしました(図2(b))。さらにこのカスプ磁場条件下において推力(プラズマ密度に比例)強化も得られ、更なる推進機性能の向上をもたらす知見を見出しました。
図2:測定結果の一例 (赤丸が非一様磁場条件で、黒四角が一様磁場条件)
本研究により、カスプ磁場形状を適用しつつ磁場強度を高めることで、更なる推進機性能の向上をもたらすことが見込めます。これは磁気ノズルスラスタの推進機性能を最大化させる推進機設計にとって1つのキーポイントとなります。今後はプラズマ生成領域におけるプラズマの時空間分布与を評価することで、特にプラズマが放電室境界壁面に衝突することで損失する管壁損失効果の解明を進めていく予定です。
本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業若手研究(JP22K14027)と自然科学研究機構 核融合科学研究所一般共同研究(NIFS22KIER002)および双方向型共同研究(NIFS23KUGM194)の支援の下で実施されました。
・タイトル
Influence of cusp-shaped magnetic fields on plasma density and thrust in an RF plasma thruster with a magnetic nozzle
・DOI:10.1063/5.0226228
・著者
Takeru Furukawa, Kento Shimasaki, Satoshi Nakamoto, Hiromasa Takeno
・掲載誌
Physics of Plasmas Volume 31, Issue 11
・神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻HP:http://www.eedept.kobe-u.ac.jp/index.html
・古川武留助教Researchmap:https://researchmap.jp/tfuru