Graduate School of Engineering, Kobe University

研究活動Activity

「社会に要請に応える新しい科学技術」に関する研究を推進するために機動性のある研究体制を構築しています。

2024年01月05日

新規合成イオン液体によるカーボンナノチューブの安定なドーピングに成功

神戸大学大学院工学研究科の堀家匠平准教授、西中茉佑子(博士課程前期課程1年)、小柴康子助手、石田謙司客員教授らの研究グループは、産業技術研究所と共同で、カーボンナノチューブのp型/n型極性を電気化学的に安定に作り分ける手法の開発に成功しました。

本研究成果は、2023年11月27日、Carbon誌にてオンライン掲載されました。

ポイント
・有機超塩基カチオン含有イオン液体の合成
・合成したイオン液体によるカーボンナノチューブの電気化学ドーピング(p型/n型の作り分け)
・印加電位によるゼーベック係数と導電率の変調
・CNT表面の電気二重層としてドープ状態を形成
・p型、n型ともに高温下で長時間ドープ状態を保持

背景
将来のエレクトロニクスやエネルギーデバイスの素材として、カーボンナノチューブ*1に代表されるナノカーボン材料が注目されています。中でも、熱を電気に変換する“熱電発電”は、日常生活や工場などで発生する廃熱を回収し、電気エネルギーとして再利用する環境発電技術(エナジーハーベスター)として期待されています。熱電発電においては、p型特性とn型特性を示す半導体を交互に配列することで、起電力を増幅させる工夫がなされます。ゆえに、p型とn型の半導体特性を示す両材料が必要となります。

カーボンナノチューブの半導体特性をp型やn型に制御する技術は “ドーピング“と呼ばれ、世界中でドーピング物質やドーピング手法の探索研究がなされています。特に、熱電変換素子は高温下で利用されるため、空気中100℃以上の環境下でも長期にわたってp型、n型ともに安定化させうる手法の開発が切望されていました。また、熱電変換特性は、ホール(p型)や電子(n型)といったキャリアの濃度によって変化することから、キャリア濃度を最適化する手法も求められています。

研究の内容
カーボンナノチューブのキャリア濃度を広い範囲で制御する手法のひとつとして、「電気化学ドーピング(図1)」が提案されてきました。本手法は、カーボンナノチューブのフィルムを電解液に浸し、電位を印加することでホールや電子といったキャリアをカーボンナノチューブに注入するものです。注入されたキャリアの電荷は、電解液中のイオンがカーボンナノチューブ表面に吸着することで補償されます。つまり、電気二重層の形成によってドーピングが可能であり、電位の大きさや符号によってキャリアの種類や濃度をコントロールできます。


図1. 電気化学ドーピングの概念図.

研究グループは、ドープ状態の安定化作用を示すと予想される陽イオンと陰イオンを組み合わせた電解液を新たに合成し、これをカーボンナノチューブの電気化学ドーピングに応用することで、p型、n型ともにキャリア濃度最適化と安定性向上の両立が可能になると予想しました。具体的には、有機超塩基と呼ばれる二環式グアニジンをプロトン化した陽イオンを、陰イオンであるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドと組み合わせたところ(図2)、イオン液体*2として得られることがわかりました。

図2. 合成したイオン液体の構造式.

こうして得られた電解液を用い、カーボンナノチューブフィルムに対して電気化学ドーピングを行ったところ、p型からn型まで、広い範囲でゼーベック係数*3と導電率の連続的な変調が可能であることが実証されました(図3)。さらに、ドーピング後のフィルムを空気中100 ℃で保存した後も、長期間にわたり極性を維持可能であることがわかりました。

図3. 電気化学ドーピングしたカーボンナノチューブフィルムにおける(a)ゼーベック係数と(b)導電率の印加電位依存性.

 

 

今後の期待
熱電発電以外にも、光センサやトランジスタなど、p型とn型の材料を組み合わせることで機能性が向上するデバイスは数多く存在します。安定して両極性の性質を発現できる本手法は、有機材料を用いた各種デバイスの開発にも大きく貢献することが期待されます。

謝辞
本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR19I9)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(23K13671)の支援を受けて実施されました。合成イオン液体のNMR測定は、本学 森敦紀教授のご協力のもと実施しました。

用語解説
*1 カーボンナノチューブ

グラフェンが直径数nmのチューブ状に丸まった構造を持つ一次元ナノ物質。

*2 イオン液体

融点が100 ℃以下の塩。常温溶融塩とも呼ばれる。

*3 ゼーベック係数

温度差1 ℃あたり何Vの電圧を発生できるかを示す熱起電力の尺度。p型では正、n型では負の値が観測されるため、極性を調べる方法としても使われる。

論文情報

タイトル
Electrochemical charge-carrier modulation of carbon nanotubes using ionic liquids derived from organic superbases for stable thermoelectric materials

DOI
10.1016/j.carbon.2023.118667

著者
西中茉佑子1、原田幾代1(当時)、赤池幸紀2、衛慶碩2、小柴康子1,3、堀家匠平1,3,4、石田謙司1,3,5
1神戸大学大学院工学研究科、2産業技術総合研究所ナノ材料研究部門、3神戸大学先端膜工学研究センター、4神戸大学環境保全推進センター、5九州大学工学研究院)

掲載誌
Carbon(Elsevier社の発行する炭素材料の専門誌)

公表日
2023年11月27日(オンライン公開)

関連リンク
工学研究科 応用化学専攻

工学研究科